松尾雄二・ふみ子ご夫妻

「心に虹を持つ」

松尾 雄二・ふみ子ご夫妻 漁師

yoroshiku_09.fw遠くに天草から雲仙方面までを望む、長崎半島最南端の脇岬漁港。
雨上がりの雲の切れ間に薄青い空が拡がっているが、海上に漁船の行き交う姿はない。
「土曜は漁協が休みだから、休漁日なんです」

 

 

 

 

 

銜え煙草の雄二さんが、向かいの岸壁を指差した。
幾人かの男達が、やはり銜え煙草で網の手入れをしている。
その頭上を、先程からウミネコの群が舞っている。あたかも駄々をこねる子供たちのように、出漁を懇願しているかのようだ。このウミネコ、夫婦の絆が とても強いとされるが・・・。

 

結婚は早かったそうですね。
「20歳のときに・・・」ふみ子さんが雄二さんに目配せをして応えた。二人は中学、高校の同級生だった。友達と数人のグループで付き合ううちに、ごく自然に結ばれたらしい。
子沢山の夫婦と伺いましたが。
「五人です」ふみ子さんが伏し目がちに応え、雄二さんが照れ臭そうに指を五本立てた。一番上の娘さんは既に17歳だという。
二人の様子を眺めていると、ウミネコより遥かに仲睦まじいようだ。

 

それにしても雄二さんの船には無線のアンテナが多いんですね。
「ええ。通信用もありますが、他船の情報をキャッチしながら、その日の最良の漁場を探るためにも必要なんです」と、雄二さんは漁師の顔になった。
船の名前は『第一久丸』となってますが、どんな由来なんですか。
「私の母親の名前を一文字取って付けたんです。向こうのが、兄の『第二久丸』です」
雄二さんは、がっしりとした体躯で、まさに海の男の典型なのだが、母親を慕う気持ちは、まるで子離れを強いられるウミネコの子みたいだ。

 

ところで、ふみ子さんの左手の指輪、素敵ですね。
「あ、これ、結婚10年目に買ってくれた・・・」
「スイート・テン・ダイヤモンドです。釣った魚にも、たまには餌をやらないと」雄二さんの顔がほころび、見る見る赤くなった。

 

 

 

yoroshiku_09_02.fwそれじゃ、そろそろ20年目のプレゼントも考え
ないといけませんね。
「私には、煙草をやめてくれるほうが、もっ
と嬉しいのに」ふみ子さんは、プレゼントのこ
とよりも雄二さんの健康を気遣う。何とも睦ま
じい夫婦だ。
そういえば、五人の子供たちも笑顔がとても
綺麗で、目が輝いている。さっき、背後の天草
方面の空に、アーチ型の淡い光の筋が見えた気
がしたのは、この家族7人の心の底からの優しさ
が織り成した、虹だったのかもしれない。

 

 

2006年2月vol.16 「よろしく先輩9」