佐々野利春・恵利ご夫妻

「浮雲」

佐々野 利春・恵利ご夫妻 ささの耳鼻咽喉科クリニック院長

yoroshiku_22.fw“今一言・・・今一言の言葉の関を、踰(こ)えれば先は妹背山”
 現在では古典のジャンルになるようですが、明治二十年に出版された二葉亭四迷の小説の一節です。
言文一致運動の先駆けとなった頃の作品で、江戸時代の文体を模していますから解りにくいかもしれませんが、『あと一言、肝腎な言葉が言えたなら結婚できるのに』となるでしょう。今も昔も、愛の世界への入り口を抜けるのは多難ですね。

 

 

 

 

 

「主人は口数の少ない、人見知りをするタイプなんです」隣に座る利春さんをみつめながら、恵利さんは笑います。
 「彼女は逆に、よく話をするんですが。私は苦手でして」利春さんは、すがるように恵利さんを見つめました。お見合い結婚だと伺いましたが、お互いの第一印象はどうだったのでしょう。
 「主人は、普通の人でしたね。でも、眼鏡の奥はとても優しい目をしていました」
 「私は、明るい女性だなと・・・」二人は見つめ合いながら、しきりに照れています。先日、結婚十年目を迎えたとは思えない、恋人同士のような雰囲気です。
 年齢が一回りほど違うそうですが、決め手になったのはどんな点なのですか。
「趣味や好みは違いますが、価値観が同じなんですね」利春さんが、きっぱりと話します。
 それを受けて、恵利さんはうなづきながら「肝心なことは言葉にしないと伝わりませんから、これも大きな決め手だったと思いますよ」
 でも、利春さんは口数が少ないのでは。
「“うちに来ませんか”と言われて、遊びに誘われたのかと思ってたら、それがプロポーズだったんです」恵利さんは、明るく笑いました。
 当時、恵利さんはイタリアに留学中で、お見合いの翌日には、残りの四ヶ月の勉強のために日本を離れたのだそうです。

 

 

yoroshiku_22_02.fw「だから、夏に知り合って、最初のデートは冬
でしたよ」利春さんは当時を思い出したように
ため息をつきました。なるほど、言文ではなく
“言動一致”しようにも、相手が目の前にいない
のですからね、身も心もポッカリと浮かんだよ
うな時だったことでしょう。でも、話しを聞い
てますと、こっちが浮いて来るんですけどね、
ご両人!

 

 

2007年3月vol.29 「よろしく先輩22」