山口広助・梅美ご夫妻

「素敵なタイミング」

山口 広助・梅美ご夫妻 料亭 青柳

yoroshiku_23.fwベートーベンの交響曲第五番『運命』は、曲頭の四つの音符の前に八分休符があります。音のない空間から始まるのですから、休符は要らないと思 うのですが、ピアノなどで試してみますと、なければ緩慢な出だしになってしまいます。

 

 

 

 

 

広助さんは大学を出ると、そのまま横浜の会社に就職をしました。そこで知り合ったのが梅美さん。でも、広助さんは退職して長崎に戻ることになります。
 「送別会のあと、最後にデートしてくれませんかと誘ったんです」広助さんは穏やかに話します。
 「私は特別な感情は持っていませんでしたし、気軽に応じました」梅美さんは明るく語ります。
 でも、それを機会に、離れて以後も電話のやりとりが続き、お互いに訪ね合うようになります。
 「私が彼を意識し始めたのは、一年ほど経ったころですね」
 こうして遠距離を越えて結婚。梅美さんは“若女将”になりました。

 慣れない世界での生活は、大変だったのでは。
 「それは何も感じませんでした。真っ白な状態からのスタートでしたから、それが良かったんだと思います。お客様をおもてなしするのも好きですから」着物の着付、茶道、華道などを習う日々が続いたそうです。
 一方の広助さんは。
 「料亭では、男はする事がないんですよ。あちこち出歩いて、いろんな人と知り合うことが営業代わりになるんです」
 なるほど、自治会や史談会など数多くの公職に就いていますね。
 「ですから、結婚してから知り合った女性の中にも、素敵な人が大勢いまして」
 「--あら、そうなの」梅美さんの言葉が八分休符のように遮りました。
 「・・・だから結婚にはタイミングが大事だし、できるだけ多くの人と接するべきですねと言いたいんですよ」広助さんは緊張した面持ちで、こちらに視線を戻しました。
 「そうね、送別会の後で誘われていなかったら、結婚してなかったかもしれないし・・・」

 

 

yoroshiku_23_02.fw人生にはどこかで分岐点がある物ですが、二人
のように、別れ間際の八分休符にも似たタイミ
ングが、その後の人生を大きく変えたことを考
えますと、正直な言葉にまさる運命はないのかもしれませんね。ですから、こちらもですね、
正直に申します。先程から足がシビレてましてね、延ばしてもいいですか・・・。言い出すタ
イミングを逃して・・・しまいましてね・・・。

 

 

2007年4月vol.30 「よろしく先輩23」