原田 和豊・愛ご夫妻

「海辺から始まる物語」

原田 和豊・愛ご夫妻 農林漁業体験民宿経営(西海市西彼町)

原田 和豊・愛ご夫妻

災禍に遭いながら、気持ちを切り替えて再出発しようとしている夫婦がいる。
長崎市から西海市へ移住し、今年5月に民宿をオープン。好調な出足だったが、9月20日に火災でほぼ全焼した。外のピザ窯の消し炭が折からの強風で舞い上がり飛び火、屋内で作業していたため気づくのが遅れた。
■ガラリ変わった人生観
民宿があるのは、長崎市街から車で約60分、大村湾沿いの波静かな入り江。「人生観がガラリと変わりました」と語る愛さんの笑顔はしかし、すがすがしい。横でうなずく和豊さんも、とても柔和な目をしている。
火事を知った人たちが、翌日から次々に駆け付けた。軽トラックをポンと置いていく人。予定していた旅行を取りやめ、休暇を復旧応援に全部使い、旅行代金まで差し出す人。ユンボを持ち込んで黙々と奉仕作業する人。民宿に隣接する別荘を仮住まいに明け渡してくれた夫婦。支援のための商品を開発した菓子工房…。西海市の民泊の会「山と海の郷(さと)さいかい」のメンバーは、親身になって支えてくれる。「募金を始めてくれた方もいて」と語る愛さんの目に涙が光る。

■「ミミズ」が近づけた仲
海辺で暮らすのは、二人の長年の夢だった。和豊さんは長崎市内で30年近く、アウトドアショップを開き、愛さんは同市内で大手生命保険会社に勤めていた。「このまま上を目指して勤務を続けるのか。そうなれば全国転勤も出てくる」。考えた末に愛さんは2年ほど前、会社を辞めて長崎の海を選んだ。
二人の年の差は二回り。結婚したのが15年前だから、51歳と27歳のカップルだった。交際を知らされた時、愛さんの母親は驚き、自分の姉にこっそり和豊さんの店に様子を見に行ってもらった。何も知らず、普通の客と思って応対した和豊さん。その人柄を確かめた姉は店を出るや、離れてたたずんでいた妹に両手で大きな○を作って知らせた。
二人の仲をぐっと近づけたのは、ミミズだった。「犬を連れて川へ遊びに行った時、彼女がミミズを平気でつかむのにびっくりした」と和豊さん。
「小さいころから、自然や生き物が大好きでした。灯りに飛んできた虫を観察していたら、翅の手入れをしているんですね。ミミズが気持ち悪いと思ったこともないんですよ」と愛さん。二人の自然に対する考え方は同じだった。
今、再建へ向けて前途は多難だが、「失ったもの以上に大切なものを手にした」と口を揃える。船、カヤック、食器類は残ったし、創原田 和豊・愛ご夫妻意工夫する料理の腕にも自信がある。
再スタートへ向けて、二人に迷いはない。西海市のグリーンツーリズムを広げていくためにも、そして何より、訪れるお客の満足した笑顔に再会するために。心を和ませる海、新鮮で豊かな食材、生きとし生けるものへの深い愛。和豊さんと愛さんが紡ぐ海辺の物語は、これからが本当の始まりだ。

2016年11月 Vol.141「よろしく先輩135」