大川 漁志・香菜ご夫妻

「母なる海に抱かれて」

大川 漁志・香菜ご夫妻 ゲストハウス経営(壱岐市芦辺町)

大川 漁志・香菜ご夫妻

母なる海が、漁志さんと香菜さんを結び付けた。二人は漁志さんの出身地、壱岐市芦辺の港町でゲストハウスを営む傍ら、5~9月はともに海士、海女として海に潜っている。

 

■転機は東日本大震災

香菜さんは岩手県陸前高田市の出身。父親が遠洋漁業の漁師で、父の実家は民宿だった。服飾専門学校を出て東京で9年間、アパレル関係の仕事に就いていたが、2011年3月の東日本大震災を機に長崎市へ避難・移住。13年6月から地域おこし協力隊員として壱岐市へ。約1年後、漁志さんと結ばれた。

「小さいころから海で泳ぎ回り、海は友達でした」と香菜さん。その海が、あの日突然襲いかかった。町を呑み込み、人々を、暮らしを奪い去った。だが、長崎で目にした海が、香菜さんに再びあの優しかった海を呼び起こした。「やっぱり、私は海が好きだ。海に囲まれて暮らしたい」。壱岐市が海女のなり手となる地域おこし協力隊員を募っていると聞き、直ちに応募した。

漁志さんも、その名の通り海とは切っても切れない。玄界灘で育ち、釣りの腕は第一級。東京の大学では美術を専攻し、デザイン関係の道へ進んだものの、故郷の海から呼び戻されるかのように、20代半ばに帰島。その後、釣竿を肩に全国各地を渡り歩いた。

 

■25年ぶりの新人海女

好きな海といったん離れながら、再び海の懐へ戻る。よく似た二人だけに、壱岐で出会うとすぐに打ち解けた。漁志さんは「地元で新人海女は25年ぶり。何とかサポートしてあげたい」と応援。やがて、あるキャンプの時、プロポーズした。香菜さんも「彼といると気を遣わなくていい。そのままの自分でいられる」とすぐにOKする。

ゲストハウスをオープンしたのは、昨年4月。海がきれいな壱岐の島に安く泊まれる気軽な宿があれば、全国から若い人たちも集まる。旅人同士、そして島民を含めた交流が広がるのでは。そんな思いからだった。古民家をクラウドファンディングによる支援も受けながら、改装。解体や壁塗りなど、自分たちでできることはし、友達の手も借りた。

素泊まり料金は相部屋3000円、個室4000円で、夕食(2000円)も可能。朝食(500円)は提携している近くの民宿で。来泊者は「ウニかき体験」やバーベキューをしたり、魚釣りをしたりできる。1階の一部に、地元の人も集える喫茶・食事コーナーも。

 

■情報交換と交流の場大川 漁志・香菜ご夫妻

「潜りのシーズンはフル回転で大変だけど、採ってきたウニやサザエなどをお客さんが美味しいと喜んでくださるのがうれしい」

「訪れる方々はそれぞれいろんな人生を歩んでいるから、互いの情報交換や交流が生まれる。そこに地元の人たちも加わる。楽しいですよ」。そう語り微笑む漁志さんと香菜さん。

穏やかな海のような自然体が、印象的だった。

2017年2月 Vol.143「よろしく先輩137」