第3話 「ゴンチチのCD」

「壊してもいいから中のCDだけは取り出して欲しいの」古いラジカセはゴンチチのCDを飲み込んだまま動かなくなっていた。外せるネジは全て抜き取ってはみたものの部品と本体がガッチリ組み込まれていて分解することができなかった。あきらめて近所の電気店に持ちこんだ。数日後、取り出してもらったCDを久しぶりにステレオで聴いた。懐かしい。新婚のころ一緒に過ごしたあの日の情景が浮かんでくる。音楽ってアルバムのようだ。マンションから今の家に引っ越して、片付かないダンボール箱が積まれた部屋の真ん中で妻が作ってくれたゆで卵を食べたっけ。こうして振り返ってみると、ふたりにしか見えない懐かしい思い出がいくつも増えている。思い通りにはならなかったり、失敗することの方が多かった。それでもがんばって今日までやってこれたのは、いつも隣に彼女がいてくれたから。恋人、戦友、女房? 微妙に違う。今は、もうひとりの自分のような気がする。