第2話 「見つめる」

結婚当初、妻は美人でスタイルがよくて、それこそ食べてしまいたいくらい可愛かった。2年前に銀婚式を迎えた妻の肌はいつの間にかハリを失いシミやシワが目立ちはじめ指先は家事で荒れていた。これまで散々苦労をかけてきた証拠だ。妻にとって最大のストレスは私が48歳のときに長年勤めていた会社が倒産したことだ。50歳を目前にして収入源を失った不安は恐怖に近い。再就職は予想を超えて厳しかった。ハローワークで何ができるのかと聞かれ「営業です」と答えた。「募集は30代までですね」とあっさり断られた。起業すると覚悟を決め「やる」と宣言した。妻は文句も言わず「はい」と言ってくれた。最初は苦しかった。思うようにいかなくて落ち込んだり、収入が不安定になった時もあった。それでも前を見てコツコツと積み上げてきた。今は新婚時代の頃のようにお互いを見つめ合うことはないが、気が付けばいつもふたりで同じ未来を見るようになっていた。