第1話 「秘密基地」

妻のスケジュール帳にビッシリと小さな文字が並ぶようになったのは高齢の母親の介護に追われる生活になってからだ。
家に人が来ない日は週に一日だけ。
ヘルパーさんが週二回。
ケアマネジャー、看護師さん、そして医師の往診日が日替わりでやってくる。
その合間に掃除、洗濯、買い物、食事の支度をこなす。
私も時間に余裕のあるときは手伝うが全てはカバーしきれない。
一日の予定がこま切れにされ自分の時間が奪われていく。
このままでは妻のストレスはたまる一方だ。
そこで近所の居酒屋を秘密基地にして時々避難することにした。
私はひたすら話を聞き続けるだけだが妻にとってはストレス解消になるらしい。
そう言えば創作料理が食卓に並ぶようになった。
料理好きの妻が居酒屋の肴を参考に自己流にアレンジしたものだ。
これが美味い。
ささやかだけど秘密基地で過ごす時間を楽しむようになった。
妻はスケジュール帳に記入した居酒屋の名前を嬉しそうに見ている。