第1話 「やはり女は怖いの巻」

 老人病院に勤めていた若いころの話です。当時70歳のその男性患者様は脳梗塞で入院されていました。片麻痺で体が不自由、感情が高ぶると大声を出して泣く「感情失禁」という症状がありました。
 奥様は頻繁に見舞い世話をしておられましたが小生が回診に行ったとき偶然おかしな行為に出くわしました。
 彼女は、「お茶」と要求される患者様に、「はいはい」とおっしゃってコップのお茶を一旦ご主人の口元に近付けてさっと引かれました。ご主人は、「う~」と唸って泣かれます。はやくくれと感情失禁されたのです。奥様は同じ行為をもう一度繰り返したのち、十分に泣かれたご主人に「はいお茶ですよ」といって飲ませました。
  「奥様、なにかのおまじないですか?」と尋ねる小生に、彼女は「先生、主人には若いころずいぶん泣かされましてねえ!この人の泣くのを見るのが楽しいわ!」