第35話 「私は私」

店主が居酒屋を営む江戸町界隈は、結構緑の多い地域です。県庁の庭、江戸町公園、出島通り沿いの銀杏並木。ここ数日、一気に春めいてあたたかな日が続いています。木々もいっせいに芽吹きました。殊に銀杏の若芽の浅い緑の連なりは、新しい季節への希望を語りかけてくれています。季節の移ろいは、殊に冬から春への変化には勇気と何かしらの幸せの予感が色に空気に装いに感じられて心が弾みます。全てのことが何とかなりそうな気分に浮き立ちます。心地よい流れに身を任せて、突き進むもよし、やがて来る厳しい暑さ、寒さにどのようにでも身を任せ、平常心で立ち向かえる「私は私」の覚悟を大切に守り続けていくための糧とするのもよし。
 と申しますのは、今の時代は常に新しいこととの追っかけっこをエネルギーとしているのではなかろうかと私は思うからです。新しい形を作っては壊し、壊しては作り、もし自分流または定型(普通の生き方)にこだわりを持ち続けるとコミュニケーションパワーを失くしてしまうのではないかとの不安が、ふと人やモノを見る目に心にジレンマとして生じがちです。私は会社勤めを辞めてから、パソコンときっぱり縁を切りました。いろんな書き物も全て手書きです。情報だ、機器だと興味を持ち、飛びつくのも結構ですが、使いこなせずに使いこなされている人のなんと多いことでしょう。自分に必要なものをしっかりと見極め、自分の価値観を信じて、どうぞ「私は私」を大切に、勇気、元気で新しい季節の扉を開けましょう。