第30話 「今は昔、母のひと押し」

手鍋さげても、という言葉はまだ生きているのでしょうか。あなた無しでは生きていけないくらい好きです。手鍋ひとつ下げてでも押しかけていきたいというおんなごころなのか、何にも要らない、手鍋ひとつでお嫁においでというおとこごころなのか。そんな熱情あふれる男女の出会いがあったのですよ。男から、女から、家族からここまで望まれれば気持も身体もゆるんでくるのが人情。もひとつ、かつて
の母のひと押しを。おまえね、ひとり口は食べれなくても、ふたり口は食べていけるんだよ、と。さて、みなさん。まだまだ安月給でひとりで食っていくのがやっとなのに結婚なんてとてもとてもなどと浮かれた暮らしをしていませんか。小金を貯めて、格好良く結婚式、披露宴としゃれて、こじゃれた住まいで小さな幸せをなどと甘い夢を引きずらないで、だんだん厳しくなっていく現実に向きあいましょう。
家計費なんてひとりもふたりもたいしてかわりやしないし、家賃だって一軒分でOK。何となく豊かな気分にさせてくれる今より、貧しい時代の方が雑念が少なくて、ほんとうのおとことおんなの幸せを見つめてあっていたのかもしれませんね。