第13話 「ひとびとの跫音(あしおと)」

敬愛する作家のひとり、司馬遼太郎さんの作品の中でも「ひとびとの跫音」という雑感風な一冊は生き方の人間らしさを考えさせる佳作であると何回も読み返しております。その中でも殊にこころに響くワンフレーズ。主人公は忠三郎さんです。「忠三郎 さんは生涯で何をした人でもなかったが、ただ存在しているだけで、まわりのひとびとに何かを感じさせる人柄をもっていた」この一節は日頃の言動を考
えると心に沁みます。読みすすむにつれて、忠三郎さんは聞き上手な人だったのだと得心させられます。おしゃべり上手よりも聞き上手。コミュニケーションの間合いを深く反省させられる一文です。
 私が会社勤めの頃、ポストアップの研修で積極的傾聴法という講座への参加を命じられ三泊四日、鎌倉研修所で学びました。同室に芥川賞作家の新井満という男がおりまして、彼の私への感想です。「所 詮、あんたは実務家やなあ」クリエーターを自負する私がいかに傷ついたか、言うはやすく、聞くは難し。ご自戒を。