第11話 「赤い糸、赤い富士」

敬愛する先輩から一枚の絵が送られてきた。富士の絵でした。しかも赤富士。赤富士は古来より吉兆のきざし、良い事の前兆として崇められ、人々を希望に満ちた幸せな気分にさせてきました。彼女がなぜ今ごろ赤富士を私に。「あなたが少し酔って、少し冗舌になって、ポッと赤らんだ顔で私を見つめていた、かつての日々を懐かしく思い描いてみました。」とメッセージが添えてありました。今は鎌倉に住み、地域の文化を大切にしながらご自分のセンスを寄り添わせ、昔と変わらぬおだやかなペースで、おだやかな日々を楽しんでおられると伺っていただけに、再び、何で今さら。もし彼女がここまで年上でなかったら、誰もがうらやむ才色の人でなかったら、そして何より私にもっと勇気があったなら・・・。誰にも知れず、ひっそりと別れたあの日は無限に遠い。寝台特急“さくら号”の別れの気笛が、時間と距離を遠く遠く引き離し、二人の道は交わる事なく、会う事もなく、それぞれの人生を今に引きずっている。想い出のひとつひとつに、ピリオドを打つ気になった事を彼女は赤富士に託して伝えてきたのだろうか。赤い糸は誰も結んではくれません。覚悟と勇気です。他山の石として、さあ諸君、当って砕けろ。砕けて泣け。後悔するよりはいさぎ良い人生を。