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様々な分野で活躍する人たちが考える、男女の距離感

第1話 裏通りの絆 その1

 バスの1番前の席に坐っていた。快適に走っていたが、乗ってきたふたり連れの遣り取りがどうも気に入らない。口篭り、ぼそぼそと小声で話す男に、「じゃがましい」と柄が悪い口調で女が文句をつけているのだ。背後から聞こえて来る声に、私は不愉快になり、腹立たしくもなった。静かなバスの中で女の悪口は続いていたが、次のバス停のアナウンスがあり、女が降車ボタンを押すように男に命じ、やれやれこれで降りていってくれるのかと安堵した。バスが止まり、ぶつぶつと女は男をなじり、男は口篭り応え、私の横を通りバスから降りるのを見た時、ふたりを見直した。女は小柄で痩せていて、目が不自由なのかサングラスを掛け、背丈が180cmはある巨体の男が女の手を引き、バス料金を払い、女を軽々と抱えてバスから降りていったのだ。私は、仲睦まじく歩いて行く彼らの後ろ姿を、苦笑い、見送った。

  • 投稿者:堀田
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様々な分野で活躍する人たちが考える、男女の距離感

第2話 裏通りの絆 その2

 演奏時間が来たが始まる様子がない。100名程入るホールに、私と友人たったふたりがビールを飲み、ジャズライブが始まるのを待っていた。スマホで頻繁にお客集めの連絡をしていたボーカリストが、意を決め立ち上がり、ギタリストの青年とピアニストの女性を伴い、マイクの前に立ち、ライブの始まりを告げた。彼女は私の娘と同じくらいの年齢で、彼女に誘われ福岡に来ていた。3人の演奏はハーモニーを奏で、かつて聴いたことがないほど彼女はいきいきと歌った。終わるなり、私はバス時間を気にしながら友人に別れを告げ、ホールを出ようとした。彼女が追いかけて来、握手を求め、目を見据えて礼を言った。どうにか最終バスに間に合い、ほっとしていると彼女からメールが入り、ギタリストの青年が彼女の恋人であることを知らされた。私はため息を吐き、彼女の見事な歌声が、私の中で鳴っているのを聞いていた。

  • 投稿者:堀田
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第3話 裏通りの絆 その3

 私と義父との間には確執があった。明治生まれで几帳面で頑なな義父と、団塊世代で大阪の下町育ちの私が合う訳がなかった。退職後、自宅で図面の仕事を続けていた義父を頼り、設計仕事を教わり、5年目に義兄夫婦が戻って来、10年目に私は義父から独立した。
 義父は三菱在職中に飽の浦で被爆している。
 私が独立して5年目に、義母が入院した。義父は病院通いを始め、義母が亡くなるまでの12年間、病院通いを続けた。
 4キロほど離れた病院に義父は歩いて行き、肌艶もよくなり、義母を見舞うことが生甲斐になっていった。被爆による後遺症に悩まされ、心がフリーズしてしまった義父を生かすために、寝たきりになった義母は、自らも生き続けたのではないかと、私には思えた。
 和蘭の栽培が義父の唯一の趣味だった。春蘭の花が咲く頃になれば、その薫りと共に義父のことを、思い出している。

  • 投稿者:堀田
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