パートナー考

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様々な分野で活躍する人たちが考える、男女の距離感

第3話 我が家

わたしの家は神奈川県の向ヶ丘遊園にある。とうとう終の棲家になった。執筆に疲れると夕食の買い物に行く妻の御供をする。近くのスーパーまで徒歩で7,8分である。季節の旬の物があると嬉しくなる。初夏にはスイカ、涼しくなると梨が飾ってある。お菓子も季節それぞれに変わる。仏壇への御供え物もある。魚のコーナーで鯵が飾ってあり「松浦産」と書いてあればその夜の食卓は鯵のたたきと焼き鯵となる。幼い頃に食した物は生涯を支配するらしい。家内が作るちゃんぽんの味もおふくろそっくりになった。仕事柄、よく長崎や松浦に帰る。長崎では居酒屋でよく酒を飲む。つまみは東京にはないものばかりである。鯨や鱶(ふか)の刺身で酒を飲むと少年時代が蘇る。東京から連れて行ったチームの連中にも「美味いだろう」と強要するが、笑って首を傾げる。やはり、少年時代の味はそれぞれに違うものらしい。幸い、家内は長崎の味を知ってくれて、それやこれやと提供してくれるまでになった。帰りの長崎空港でも鯨やスボかまぼこ、竹輪、大村ずしを山と買い込み土産にする。家内とは東京で結婚したが、もう長崎で結婚したも同じである。墓も松浦にとも思うが、こればかりはどうなることか。

  • 投稿者:堀田
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第2話 おふくろの味

家内の実家は古民家であったが荒れに荒れていた。それから10年程過ぎて、家内の実家は「今年の梅雨で壊れる」といわれるまでになっていた。それから古民家再生が始まった。あの屋根に10万、あの廊下を直すのに20万といった次第である。知覧の建築家や大工の棟梁が手弁当でやってくれた。いま流行りの古民家再生の奔りである。囲炉裏を造り自在カギを吊るした。自在カギはわたしが趣味で集めたもので、神奈川の自宅には10本ほどあった。囲炉裏の灰も知覧の友人が運んでくれた。いまでは、年に数回囲炉裏を囲んで酒宴である。知覧で酒といえば芋焼酎である。家内が作る長崎風の煮物や茶碗蒸し、枕崎の鰹、知覧の地鶏肉が並ぶ。皿はわたしが伊万里で創った大皿や母が残した食器である。わたしの実母は食器や茶器を集めるのが趣味の人だった。ここにきて母が集めたガラクタが役に立っているのである。家内の味付けも母の味付けとそっくりになった。雑煮からしてそうである。妻の実家で長崎のおふくろの味を味わう。もしかしたら、これは理想の形なのかもしれない。

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第1話 妻の実家

わたしの家内の実家は鹿児島県の知覧にある。もう、かれこれ40年余は通っているはずである。長男の大吾も知覧で生まれた。まだ、知覧が有名になる前で素朴で清潔な街であった。街中の小川には鯉が泳いでいて、よく餌をやった。武家屋敷には家内の友人の家があり、お茶や団子をご馳走になった。「かからん団子」という団子である。「この団子を食すると病気にかからん」の意味があるらしい。知覧の図書館にもよく通い、知覧と西の果ての島の人との交流や特攻隊の話を「知覧にて」で書いた。いまは記念館も特攻観音もよく整備されていて清潔である。初めて知覧を訪れた日が忘れられない。家内は先に実家に帰っていた。鹿児島市からバスである。七曲りか八曲がりの峠を越えて1時間もすると知覧である。日はとっぷりと暮れている。家内は「知覧からタクシーで来い」という。タクシーで暗闇の小山を超えると家内の実家である。真っ暗闇である。タクシーの運転手がクラクションを鳴らすと暗闇の中に懐中電灯の火が揺れた。

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