九月の声を聞きますと、今も風の盆の哀調が耳元によみがえります。越中、富山、八尾(やつお)に伝わる実に静かで、深い男と女のさりげないからみ合いがこころにしみます。三味線と胡弓、そしておはら節の男性の高音。八尾には宿が数件しかなく、夜も10時を過ぎますと、観光客も引いてしまい、本来の風の盆に戻ります。胡弓と三味、足音もなく静かに進む男踊り、女踊り。どこかできっと目と目、こころとこころはからみあっているであろう見事な一対の夢、幻。
この八尾の風の盆を知ったのは高橋治さんの小説「風の盆恋歌」(新潮社)に出会ってからです。根気のいる小説ですが、大人の恋の不思議に満ち満ちたとても崇高な生き方だと、私は感じいりました。立春から二百十日の荒ぶる日を選んで男と女の無言で通り過ぎて行く風の舞を、もう一度舞ってみたいと思う年になりました。気持ひとつで風になれます。どこへでも飛んで行けます。八尾の風の盆は九月の一、二、三の三日間です。 |

7月末の長崎みなと祭りの花火を若い人達と船上からビール片手にカンパイ、カンパーイと見物しました。打ち上げの点火の火も見える、くらいの所から、花火はまさに頭上で開花。見事なものではありましたが思っていたほどの感動はありませんでした。多分、どんなに美しいものでも間近で、これでもか、これでもかと見せつけられると風情(ふぜい)も趣(おもむき)もあったものではありません。日頃の会話もそうですが、ほど良い距離とほど良い音が伝えたいことよりも伝えたいこころがあの方へ届くのではないでしょうか。頭上で花開く花火の破裂音を聞きながら隣の人とロクな会話もできず黙しておりました。昔の人は言いましたではないのですか。
「夜目、遠目、傘の内」と女性が一番美しく見えるシチュエーションをはしなくも見事に言葉にしております。何事も控え目になさいませという先人の警句として胸の内にしまっておきたいものです。生き方に比較の対象など決してありません。つまるところ、この道は自分磨きの旅なのですから。 |

夏がくれば思い出す。はるかな恋、遠い人。ウソはなかった、すれ違っただけ。青春色に輝いて、はるかな恋、もう一度。
あなたのために、良かれと思ってしていたことが、必ずしも望まれていたことではなく、喜んでもらえていなかったことを、すれ違いが多くなるに従って、私にもようやく分かってきました。気を利かせたつもりが、うっとうしいと言われた時、早く切り上げなければと、よぎっては消え、消えては未練が引き止めた。そんな日々からの脱却がはっきりと私の決心になりました。
人生は何ごとも“なるように”なるようにできているという、あきらめと希望が押したり引いたりしながら、自分自身を自分で理解することがどんなに毎日の手助けになるのかも学びました。またあの夏の日が来ます。がんばります。 |

相棒という映画が大ヒットだそうです。私は映画、テレビなどの映像文化よりも文字文化の信奉者です。自分の文化として蓄積していけるのは絶対に活字だと信じておりますし、実感もあります。
と、いいつつも過日、テレビで相棒というおなじみ水谷豊のリピート番組に見入ってしまいました。「ラブ」という名の犬をめぐっての殺人事件でした。妻よりも、夫よりもペットを愛し、大切に思う男と女の愛憎のこころ模様の不思議にただただため息でした。
愛とは何なのでしょう。人を信じられなくて愛が生きていけるのでしょうか。自信をもって自分を信じ、相手を信頼してこその愛だと思うのです。それでもむくわれない愛もあります。私にもそんなつらい経験が、ひとつやふたつではなくあります。恐れてはなりません。それが人生、それが人間なのです。目をつぶることなく過去を見つめ、明日を信じて自らの可能性を磨いていこうではありませんか。 |

今年は例年になく寒さの残る春でしたね。桜が咲いて、散って、ツツジと菜の花の競演も盛りを過ぎて、本当の春が来る前に、花の季節も急ぎ足でございました。「花のいのちは短くて、きびしきことのみ多かりき」(林ふみ子)などと時々思った昔もありますが、どっこい、人の生き方を花にたとえられてもそこまで落ち込むなどということは、非凡な私などには得心できません。
こころの持ちようで、いつも青春、いつまでも青春。可能性を信じて、それなりに心身を整えていく覚悟を持ち続けていければ、若く、強く輝いていけると私は思います。
過日、ある女性からカメラをいただきました。私の趣味のはしくれに写真があることをひとことも言わず感じとってくれるやさしいこころの方です。35mmのフィルムカメラで、数十年前の日本を代表するメカニカルカメラです。安易、簡便、ムダなしのデジタルカメラ全盛の今、かつてのご主人との想い出の残像がたっぷりつまったカメラを、なぜ、今私に。彼女の出直しの決意を嬉しくいただきました。デジタルカメラは季節は褪せても、こころは褪せません。どうぞこころの褪せる太陽の季節へ急がず、あせらずご一緒しましょう。 |
 |
|