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*よろしく先輩 6話~10話*
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「あなたに首ったけ」
陳 東華・楊 智香ご夫妻  ホテルJALシティ長崎 代表
「あなたに首ったけ」陳 東華・楊 智香ご夫妻 ホテルJALシティ長崎 代表
 日本の古語に「山際」と「山の端」があります。「やまぎわ」は山に接する空の部分、「やまのは」は空に接する山の部分。どちらも似たような物で、使い分けるのは難しいのですが、それにしても何故こんな言葉が生まれたのでしょうか?

 「うちの奥さんは、まあ、穏やかな人ですね」
 ご主人の陳さんが評すると、
 「主人も、まあ、穏やかな人ですよ」奥さんの楊さんも同じ答え。

 それならば“似た者夫婦”なのかと思うと、
 「微妙に違うんです」と、ご主人。
 「そう。夫婦って共通の世界を持つのが大切なんですが、でも、お互いに違った方向から接することも必要だと思いますよ」奥さんが補足する。そして、ふと見つめ合う視線は大地と空が接するように、ごく自然。まさに「山際」と「山の端」の関係だ。

 二人が知り合ったのは、長崎生まれの陳さんが京都で過ごしていた学生時代。京都生まれの楊さんはまだ高校生だったが、華僑協会で中国語を習った時の先生が陳さんだった。
 その後、楊さんは高校を卒業して華僑協会に勤めるようになり、そこで仄かな愛が生まれたとか。
 陳さんは福建省出身華僑の四代目、楊さんも同じく福建省出身華僑二代目だった。そんな共通の世界が二人を強く結びつけたのだろうと、お互いに若き日々を振り返る。
 「それに、結婚って相手の人柄ですよ
 「そうね。この人となら苦労を共にするわよって気持ちがないといけませんよね

 現在、陳さんは『上海遊友倶楽部』の代表として、何度も多くの人を上海に案内しているが、この時も奥さんは写真撮影などで、ご主人の仕事をバックアップしている。日常でも、自宅と仕事場の送り迎え
の車の運転は奥さんの役目だとか。

 ところで、国籍は中国のままだそうですね。
 「はい。別に拘りがある訳ではないんですが、必要性も感じませんから」と、陳さん。
 「そうね。お互いが“心のふるさと”同志なのよね」二人は頬を紅くして見つめ合う。

 あれあれ、新婚さんと話しているような雰囲気になって来ましたよ。母国愛もさることながら、夫婦愛が一番よろしいようで・・・。
 それじゃ、お邪魔にならないうちに、私たちも退散することにいたしましょう。

「あなたに首ったけ」陳 東華・楊 智香ご夫妻 ホテルJALシティ長崎 代表

2006年3月vol.17「よろしく先輩10」

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「心に虹を持つ」
松尾 雄二・ふみ子ご夫妻  漁師
「心に虹を持つ」松尾 雄二・ふみ子ご夫妻 漁師
 遠くに天草から雲仙方面までを望む、長崎半島最南端の脇岬漁港。
 雨上がりの雲の切れ間に薄青い空が拡がっているが、海上に漁船の行き交う姿はない。
「土曜は漁協が休みだから、休漁日なんです」
 銜え煙草の雄二さんが、向かいの岸壁を指差した。
幾人かの男達が、やはり銜え煙草で網の手入れをしている。
 その頭上を、先程からウミネコの群が舞っている。あたかも駄々をこねる子供たちのように、出漁を懇願しているかのようだ。このウミネコ、夫婦の絆が とても強いとされるが・・・。

 結婚は早かったそうですね。
「20歳のときに・・・」ふみ子さんが雄二さんに目配せをして応えた。二人は中学、高校の同級生だった。友達と数人のグループで付き合ううちに、ごく自然に結ばれたらしい。
 子沢山の夫婦と伺いましたが。
「五人です」ふみ子さんが伏し目がちに応え、雄二さんが照れ臭そうに指を五本立てた。一番上の娘さんは既に17歳だという。
 二人の様子を眺めていると、ウミネコより遥かに仲睦まじいようだ。

 それにしても雄二さんの船には無線のアンテナが多いんですね。
「ええ。通信用もありますが、他船の情報をキャッチしながら、その日の最良の漁場を探るためにも必要なんです」と、雄二さんは漁師の顔になった。
 船の名前は『第一久丸』となってますが、どんな由来なんですか。
「私の母親の名前を一文字取って付けたんです。向こうのが、兄の『第二久丸』です」
 雄二さんは、がっしりとした体躯で、まさに海の男の典型なのだが、母親を慕う気持ちは、まるで子離れを強いられるウミネコの子みたいだ。

 ところで、ふみ子さんの左手の指輪、素敵ですね。
「あ、これ、結婚10年目に買ってくれた・・・」
「スイート・テン・ダイヤモンドです。釣った魚にも、たまには餌をやらないと」雄二さんの顔がほころび、見る見る赤くなった。
 それじゃ、そろそろ20年目のプレゼントも考えないといけませんね。
 「私には、煙草をやめてくれるほうが、もっと嬉しいのに」ふみ子さんは、プレゼントのことよりも雄二さんの健康を気遣う。何とも睦まじい夫婦だ。
 そういえば、五人の子供たちも笑顔がとても綺麗で、目が輝いている。さっき、背後の天草方面の空に、アーチ型の淡い光の筋が見えた気がしたのは、この家族7人の心の底からの優しさが織り成した、虹だったのかもしれない。
「心に虹を持つ」松尾 雄二・ふみ子ご夫妻 漁師

2006年2月vol.16「よろしく先輩9」

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「笑う鯨」
石橋 義昭・政代ご夫妻  石橋貝産物 代表 
「笑う鯨」石橋 義昭・政代ご夫妻 石橋貝産物 代表
 インドネシアのレンバダ島民は生存捕鯨を認められた人々だが、漁に出る船では話をしないという。鯨は人間の言葉を理解すると信じられているからだ。
 それと同じ理由ではないのだろうが、ご主人の義昭さんはいたって無口。
 そもそもお二人のなれそめは?
 
 「・・・そんなことは、忘れたですね」
 あとはシジミのように口をつぐんだまま。
 「私は森山町の農家の出身なんですが、ある時この店で住み込みで働く事になりまして。主人の姉たちに気に入ってもらえて、それで・・・」

こちらも言葉を抑え、店の奥で包丁を使う義昭さんに目配せをしている。
 しかし、ご主人はまんざらでもなさそう。いえ、ちょっと照れくさそうな笑顔だ。
 鯨はもとより、貝類も昨今は漁が減っているようですが?
 「そう、厳しいですね。ですけど農家の仕事に比べると、商売のほうが楽ですよ。動きが全然ちがいますから」と、政代さんは気丈に応える。その間も義昭さんは無言で包丁の手を休めない。それなのに、政代さんの言葉には微妙に口許を暖めている。
 鯨は、人間には聞こえない低周波で数千キロ離れていても交信できると言うが、まさにそれかもしれない。二人には周囲の人には気付かれることのない特殊なコミュニケーション法があるのだろう。
 そんな妄想を巡らせていると、義昭さんが奥から鯨の切り身を店頭に持って出て来た。
 「これを写真に撮りませんかって」と勧めてくれたのは、政代さん。義昭さんは無言のまま、見栄え良く並べている。ふーん、以心伝心!
 「夫婦に言葉は要らんでしょ」と、義昭さん。まるでこちらの質問を予期していたように一言。そして満面の笑顔。その背後で政代さんも同じ顔。
 この二人、絶対に鯨にちがいありませんよ。
「笑う鯨」石橋 義昭・政代ご夫妻 石橋貝産物 代表

2006年1月vol.15「よろしく先輩8」

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「ふたりぼっちの世界から」
リー・フレイク、ウー・ハージョンご夫妻

「ふたりぼっちの世界から」リー・フレイク、ウー・ハージョンご夫妻
 「私は東洋人類学を学ぶために韓国の大学に留学しました」アメリカのユタ州出身の御主人、フレイクさんは流暢な日本語で話す。以前にも日本で暮らしたことがあり、今は長崎の高校で英語指導教師をしている。
 「主人とは、同じ大学に通うバスの中で知り合いました」
 家で韓国語を教えている奥さんのウー・ハー・ジョンさんも、なかなかの日本語。二人は英語・韓国語・日本語が話せるそうで、日常会話は英語が中心なのだそうだ。
 それにしても、お互いに親兄弟と離れた日本での生活に、不安や不便を感じないのだろうか?
 「食べ物も含めて、特に問題はありませんね」二人は異口同音にそう話す。

 「でも、韓国では親兄弟の絆が深いから、私の家族は寂しがっています」奥さんはアメリカとの違いを語ってくれた。それを受けて、ご主人は、 「外国で生活をすると、自分の国のことがよく分かるようになりますよ。色々な事が違いますから」
 「そう。だけど希望があって、愛情があれば世界中どこでも暮らして行けると思います
 なるほど。それに可愛い子供さんも生まれたばかりですからね。
 「まだ三ヶ月で名前は世娥(セア)と言います。娥は“美しい”の意味です」
 産着の中を覗き込む二人の表情は、世界共通。
 「子供ってすごいと思います。本当の自分を教えてくれるんですよ」ふと、ご主人が真顔になった。
 「私は自分のことを優しい人だと思ってましたが、世娥が泣き出すと苛々することがあるんです」
 「私も気付かなかった彼の一面です」奥さんも困惑の笑みを浮かべた。
 「そんな時は私も反省させられますよ」
 さすがに“この世で一番美しい娘”なんですね。
 お互いに母国を離れ、二人きりで始めた新婚生活ですが、今は世娥ちゃんが最初に話す言葉がどの言葉なのか、二人で楽しみにしているとのこと。小さな小さな手のひらと同じように、家の中で言葉の花が咲き始めるのも、もうじきですね。

2005年12月vol.14「よろしく先輩7」

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「そよ風の中の二人」
 山口 徳之・あゆみご夫妻  VOICE代表
「そよ風の中の二人」山口 徳之・あゆみご夫妻 VOICE代表
 漢和辞典によれば、“若”の文字は元来『したがう』の意味だった。それが国語になって『わかい』と転化した物らしい。詳細な歴史は知る由も無いが、若い時は先人・長老・経験者の言葉に従うべきだとする思想かもしれない。ところが・・・。
「私は誰の言うこともまったく聞きませんでしたね。親であれ先生であれ」五島出身の徳之さんはそう振り返る。
 それが高校二年のある日、身内の一言に強い衝撃を受けたのだそうだ。
 「ぶらぶらしてないで床屋にでもなってみなさいって言われたんです。生まれて初めてのショック、まさに言霊ですね。」卒業と同時に上京、美容院で見習いとして働くことにした。
「21歳の時、ヘアー・カットのモデルになった18歳の女子高校生の髪を、自分の好みで仕上げたら泣き出してしまったんです。短過ぎるって」
 すると横に座っているあゆみさんがほほ笑んだ。
 なるほど、合縁奇縁ってやつですね。
 「私が25歳、彼女が22歳の時に結婚しました。でもまだ私は独り立ちをしていなかったので、彼女の身内からは猛反対を受けました」
 それでも言うことを聞かずに?
 「ええ。今に見てろって・・・若さですね」
 埼玉出身のあゆみさんを伴って、身寄りのない長崎で“VOICE”を開いた。お客さんの声を聞く意味合いなのだが、家庭内はそうは行かなかった。

 「随分苦労を掛けました。二人とも郷里を離れてますから、二人の子育ても親の協力を得ずに頑張ってくれてますし。今、初めて言いますが、彼女の愛情は男女を越えた“博愛”ですよ。ギブだけでテイクがないんです」心なしか徳之さんの目が潤む。それを優しい笑顔で受け流して、あゆみさんは話す。
 「でも、若いっていいですよね。若いから出来ることって沢山ありますから。最近は結婚年齢が遅くなってますが、勿体ないなって思います。その間に幾つもの思い出を作れるのに
 「そう。喧嘩だってしますが、時間の風化に任せるんじゃなく、互いに聞く耳を持って話し合うことにしてます。だから、いい思い出に変わるんです
 話しながら、徳之さんは風に揺れるあゆみさんの前髪を優しく撫で上げる。
 先程から何かすがすがしい物を感じていたのは、窓からの風だけではなく、二人の間から醸し出されるハーモニーなのかもしれない。

2005年11月vol.13「よろしく先輩6」

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